日本原子力研究開発機構で行った夏期インターンシップ
| 固定リンク 投稿者: 機械工学科
皆さん、こんにちは。
材料グリーンプロセス研究室に仮配属されました、機械工学科3年生の越石和正です。
2021年の夏期インターンシップは2020年から続く新型コロナウイルスの影響があり、多くの企業が対面形式ではなくオンライン形式でした。
このブログでは、対面形式の、しかも国立の研究開発機関で行ったインターンシップをご紹介したいと思っています。
最後までお付き合い下さい。
私は10月8日(金)から10月10日(日)の3日間、福井県敦賀市にある国立研究開発法人日本原子力研究開発機構のインターンシップに参加しました。
私がこのインターンシップに参加した理由は、日本で唯一の原子力に関する総合的な研究開発機関で実際の研究開発を体験したいと感じたためです。
また、機械工学科での学びや経験が原子力の研究開発の場で活かせるのか検証したいと思ったこともさることながら、材料グリーンプロセス研究室の古井光明先生の強い勧めもあり、志望理由や希望実習テーマなどをまとめた応募書類を提出しました。
インターンシップの実習で扱うナトリウムは高速増殖炉にとって重要な材料のひとつであること、特に液体ナトリウムと構造材料の濡れは高速増殖炉の設計,運転,解体,洗浄を左右する物性であることから、液体ナトリウムの濡れ性評価に関するテーマを希望しました。
またナトリウムは持続可能な社会を支える再生可能エネルギーへの寄付も大きく、環境問題解決の糸口となり得る材料であることもナトリウムの物性について学びたいと思った要因です。
インターンシップ1日目は日本原子力研究開発機構全体の説明と業務内容などについて事務員の方から説明がありました。
本機構は原子力の未来を切り拓き、人類社会の福祉に貢献すべく、世界の中核的拠点を目指し、様々な研究課題への挑戦を続けていることを知りました。
次に高速増殖炉の特徴や、私が行う実習テーマの目的と内容について説明を受けました。
私が実習で取り扱う液体ナトリウムは、高速中性子の速度を減速させない(中性子に比べて約23倍重たい元素である)ため、高速増殖炉の冷却材に用いられています。
また、反応しやすいアルカリ金属であるため、高速増殖炉の構造材料の腐食や溶出が問題になっていることを知りました。
続いて実験室へ移動し、固体ナトリウムをセラミックス包丁で切断することで固体ナトリウムの硬さを体感し、包丁からの剝がしやすさなどを感じ取りました。
また、切断面を顕微鏡で観察して破壊形態を確認すると共に、酸化と未酸化の違いについて学習しました。
2日目は液体ナトリウムを使用して基板材料との濡れ性について学びました。
濡れ性という専門用語は聞き慣れないと思いますが、端的に言うと「液体と固体のなじみやすさ」です。
液体・固体間の濡れ性の評価は、液体が固体面に接触した際にできる液体と固体面との間の角度に基づきます。
この角度のことを接触角と言い、図1にように示されます。
接触角が小さい、つまり液体のふくらみが低く、平らな状態になる液体は固体と濡れやすく、反対に液体のふくらみが高く、球形に近い状態になる液体は濡れにくい性質を持っています。
図1 液体と固体の濡れ接触角
インターンシップでは3種類の純金属である鉄,ニッケル,銅を基板材料として使用しました。
150℃に加熱されたホットプレートの上に基板材料を置き、その上に液体ナトリウムの液滴を滴下しました。
続けてホットプレートを傾けながら、ナトリウム液滴が落下し始めた角度を測定しました。
ナトリウム液滴が落下し始める角度は、鉄が約15°,ニッケルは約18°,銅は約27°でした。
基板材料の違いによって、なぜナトリウムの滴下角度に差が生じるのかを考察しました。
3日目は測定データや考察を表やグラフにまとめ解析検討し、インターンシップを指導して下さった研究者の方へ発表しました。
私は基板材料による滴下角度の違いについて、基板材料の表面粗さと考察しましたが、実は液体ナトリウムと基板材料の原子間結合力がその要因のひとつであるとの説明を受けました。
今回は3種類の純金属を基板材料として実験を行いましたが、これらを元素周期律表に当てはめると鉄は8族,ニッケルは10族,銅は11族となります。
液体ナトリウムとの濡れ性が最も良かったのは銅で、逆に悪かったのは鉄です。
このことから、元素周期律表の族と濡れ性は関係性が高いと考えられます。
また原子が結合すると分子になります。
結合は原子と原子の間にはたらき、分子を形成するための力です。
固体を構成する分子は、液体分子ほど自由に動けません。
固体は分子を再配列させて表面積が最小となる形状へ変形するのは容易ではありません。
そこで、自らの分子の再配列よりも,気体,液体,微粒子を吸着したり、他の固体と付着することによって、自らの表面積(液体•固体界面の面積)を小さくし、安定化を図ろうとします。
従って、固体の付着するエネルギーが大きいほど、気体や微粒子を吸着しやすく、液体で濡れやすく、他の固体と付着しやすくなります。
固液間の接触でも原子間結合力がカギを握っていることを知り、びっくりしました。
このインターンシップではナトリウムの固体•液体状態での特性について学習し、液体ナトリウムの固体金属との濡れ性評価という、機械工学科の講義•演習•実験では学ぶことができない体験ができました。
学び経験したことを活かして、今後の学修、特に4年次の卒業研究に取り組んでいきたいです。
そして将来は、原子力の新しい技術開発や、安心•安全な維持管理などに貢献していきたいと思っています。
最後に、夏期インターンシップという貴重な体験の機会を与えて下さった日本原子力研究開発機構のみなさまと、古井先生の力強い後押しに感謝します。
どうもありがとうございました。