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足跡は地球を救う!とうとう最終回「誰がためにEFはある」

| 投稿者: 機械工学科

みなさん、こんにちは。
サステイナブルマネジメント研究室芝池です。
本当に長い間ご無沙汰をしてしまいましたが、今回は足跡(footprint指標)シリーズの最終回たるにふさわしく、これまでに登場したCFP(カーボンフットプリント)WF(ウォーターフットプリント)の親分格であるエコロジカルフットプリント(Ecological Footprint、以下EFと略します)について紹介します。

EFはその名の通りエコロジカル、つまり私たちが生きていくにあたって生活環境や自然とどう調和しているのかをざっくりと表現する便利な指標です。
CFPは製品がライフサイクル全体で排出する温室効果ガス(GHG)の総量、WFは同様に消費する水の総量を示していたのですが、EFはそうした個々の負荷要因を全部(といっても主なものだけ)ひっくるめて表せるのです。
だから「親分格」なのですね。
ただしEFは製品というより国や地域、組織などの現状を評価するのに適しています。
事実、私の研究室でも卒業研究でEFを利用する学生が時々いて、東京工科大学のEFだとか、八王子市や武蔵野市、町田市なんかのEFを計算して改善すべきところはないかと検討した例があります。
また、各国のGDPなどEFと他の指標を組み合わせ、新しく「環境経済指標」なるものを提案した学生もいるんですよ。
どうです、なかなか面白そうでしょう?

それにしても、そんなに便利な指標なんてホントにあるのかなと思うかもしれませんが、これがちゃんとあります。
ではどう計算するのかというと、例えばある地域に居住する人々の活動が地球環境に与える影響を、資源(食料も含みます)の再生産や廃棄物の浄化に必要な陸地や水域の面積として算出するのです。
このとき、排出されたCO2を吸収するために必要な森林の面積や、道路や建築物等に使われて生産には利用できなくなった土地の面積なども合計されるので、私たちが生活するために消費する面積、まさに地球の自然生態系を踏みつけた足跡の大きさだと言えます。
ここで重要なのは、CO2の排出と食料の消費、汚染物質と道路の舗装とかの、まるで違う内容をみ〜んな土地の面積に換算して足してしまえる点です。
つまり、EFを使えばいろんな種類の環境への影響を全部まとめて一度に評価できてしまうのですから、こんなに便利な指標はちょっと他に見当たりませんよね。
実は他にも同じような指標があるにはあるのですが、結構みんな難しくてEFほど普及していないというのが現状です。

さて、下の図を見て下さい。WWF(World Wide Fund for Nature「世界自然保護基金」、プロレスの団体じゃありませんよ)が作成した世界地図なのですが・・・ん、なんか変?
どこがおかしいかわかりますか?

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【出所:WWF「生きている地球レポート2006年版」


そうです。各国の形と大きさが明らかに変ですね。
日本やイギリスはパンダ(WWFのロゴを見たことあります?)みたいになっちゃってるし、オーストラリアやカナダ、アフリカ諸国は消えちゃいそうです。
種明かしをしますと、これは各国の国土をその国のEFが許容される面積にした状態を想定してWWFが作成したイメージ図なのです。
この世界地図によれば一目瞭然、現在の日本やイギリスは人口と国土の関係からするとEFが大きすぎるし、逆にアフリカ諸国は自分たちの国土を削って私たちを助けてくれているというわけですね。
う〜む、なんとも衝撃的というか、深く考えさせられる地図だとは思いませんか?

WWFジャパン(WWFの日本支部といった組織ですが、名誉総裁は恐れ多くもなんと秋篠宮皇嗣殿下です)が出した「Japan Ecological Footprint Report 2012(40MB以上のちょっと大きなPDFファイルです)」によると、日本人一人当たりのEFは約4.2 gha(「グローバルヘクタール」と読みますが普通の広さの単位であるhaとほぼ同じと考えて下さい。ちなみに最新のデータでは約4.7 ghaに増えているようです)でG7の中では最低ですが、それでも世界平均の約1.6倍でした。
その中で最大だったのがCO2の排出を吸収するのに必要な土地の面積で、実に64%、全体の約2/3を占めています。
また需要別でみると、すべてのEFの66%(これも2/3!)を家庭での消費が占めていて、さらにその約20%は食料に関わるフットプリントなのだそうで、毎日の食事を輸入に頼っているのも原因になっているようです。
世界で許容されるEFは一人あたり約1.8 ghaだとされていますので、全世界の人が私たちと同じ水準の生活をすると地球があと2個近く必要だという計算になります。
これはもう火星にでも移住するしかありませんから、とてもとてもサステイナブルだなんて言えませんよね。
ちなみに世界平均が約2.6 ghaだったら地球が1.5個ないとダメなのに、じゃあ足りない分はどうしているんだと考えれば、だから地球温暖化や資源枯渇といった様々な問題が起きているんじゃないかという証明になるわけですが、しかし実際には今でも疑問を持つ人や行動を変えようとしない人がいるなんて私には不思議でならないのです。
「誰がためにEFはある」ってタイトルだけど、EFはもちろん地球のため、人類のためにある大変有意義な指標ですから、この便利なEFを活用して私たちの活動を見直し、地球を救うための「鐘」を鳴らそうではありませんか。

というところで本シリーズも終わりです。というか私の出番はこれで全部終了、めでたくお開きとなりました。
長い間拙い話に付き合っていただきありがとうございました。   <了>

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