足跡は地球を救う!その3「走れWF」
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前回CFP(カーボンフットプリント)のお話をしてからずいぶん時間が経ってしまいましたが、今回はその兄弟分ともいえるWF(ウォーターフットプリント)について紹介したいと思います。
まずCFPのCはカーボン、すなわち「炭素」であって、製品やサービスがライフサイクル全体で排出する温室効果ガス(GHG)の総量を二酸化炭素(CO2)の量に換算した指標を作成し、この指標を製品などに添付して示す制度の名前でしたね。
指標自体も一般にCFPと呼ばれていますので、言い換えれば、LCA(ライフサイクルアセスメント)の分析結果から地球温暖化への影響の部分を抜き出し、わかり易く示した数値がCFPなのだと覚えておいて問題はありません。
一方、今回のWFのWはウォーター、つまり「水」ですから、こちらは製品等がそのライフサイクル全体で消費する水の総量を示す、同じような形式の指標です。
洗濯機であれば洗濯時の水の消費量って相当大きそうですが、コピー機だって紙を利用するとすればその紙の生産には大量の水を消費しているのです。
衣服などに用いられる羊毛を生産するには、羊の育成や飼料の耕作に水は欠かせませんし、工場では様々な材料を洗浄し、またその汚染水を浄化するのにも使います。
このように水は私たちの気づきにくいところでもどんどん消費されていますので、CFPだけではなく、WFにも注目する必要があるのです。
ところでWFにはCFPと違ってPが付いていませんが、これは、CFPの正式名称がCarbon Footprint of Productsなのに対し、WFは単にWater Footprintだというだけのあまり意味のない理由によります。
それよりもここで重要なのは、CFPとWFというよく似た名前を持つ2つのFootprint(足跡)なのに、実は性格が大きく異なっているという点でしょう。
お兄さんは豪放で開放的だけど弟は繊細で几帳面、なんていう兄弟を時々見かけることがありますが、まあそんな感じでしょうか。
さて、CFPは地球全体の温暖化への影響をGHGの排出量で表すので、例えばCO2は地球上のどこで排出されても同じだけの負荷になる、という判断がなされています。
もちろんメタンガスやフロンガスでも扱いは同じで、CO2に対する温室効果の相対的な強度、すなわちGWP(Global Warming Potential)が違うので、GHGの総量を算出するためにCO2の量に換算するときの変換係数が異なるだけです。
しかし水については、同じ水であっても地域性が大きく影響してきます。
地球上には、日本のような水資源に比較的恵まれた国もあれば、砂漠地帯のように水がほとんど無い場所や、あっても汚染がひどく、そのままでは生活には利用できない地域が多く存在しますよね。
ですから、こうした地域の特性を考慮してWFを算出し、環境への影響を正しく評価しなくてはなりません。
また、地球は水の惑星と呼ばれていますが、全世界の水のうち海水がなんと約97%を占めており、しかも残りの3/4~2/3は氷なので、実際に私達が利用できる水資源は1%にも満たないという驚きの事実をご存知でしょうか?
しかもその真水(Fresh Water)が一部の地域に偏って存在しているわけですから、「どれだけ水が消費されるか」の影響は、その水が「地球上の一体どのようなところで消費されるのか」を抜きには考えられないのです。
さらには、一口に水の消費と言っても、文字通り消えてしまう(水素と酸素になってしまう)という意味なのか、汚染されるのか、あるいは水蒸気や氷に変化するのか、いろいろ考えられます。
このように、GHGと違って水は1種類しかないのに取扱いが複雑で困難だというわけで、一応国際標準化はされたものの、WFはなかなかCFPのようには広まらない状況にあります。
しかし、今後の人口増加に対応し生活の質の向上を進めていく上で、つまりサステイナブル社会の実現にとって水資源確保の重要性に疑問の余地はありません。
複雑だから、困難だから、というような理由で放って置かないで、なんとかWFを世間に広め、地球温暖化と同じように世界中で良好な水環境の整備に取り組んで行く必要があると考えています。
地球を救うために、今こそ「走れWF」なのです。
というところで本シリーズの第3回目を終わります。
次回はいよいよシリーズ最終回になりますが、最終回にふさわしく、まるでFootprint指標の親玉のような名前を持つ「エコロジカルフットプリント」についてご紹介します。
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