新シリーズ:秘仏の環境効率を考察する!【やっぱり長くなった最終回】
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みなさん、こんにちは。サステイナブルマネジメント研究室の芝池です。
本シリーズもいよいよ最終回を迎えました。
今回は、ついに日本一環境効率の良い秘仏が決定!というほど大げさな話ではなく、単にあれこれ考えてみた程度ではありますが、何はともあれ本題に入ります。
前回、国宝に指定されている秘仏の中から勝手に8体を選んで表にしました。
これら8体の仏さまは書籍にもよく紹介されていて、写真も容易に入手できますし、大変厳かで見た目も実に美しく立派な仏さまばかりです。
今さら言うまでもなく、他にもたくさんの素晴らしい秘仏が全国に所蔵されているわけですが、とりあえず前回の表をもとに考察を進めたいと思います。
なので、まずは以下に表を再掲します(決して手を抜いているわけではありません)。
秘仏名 |
所蔵寺社 |
所在地 |
開扉日 |
|
1 |
如意輪観音坐像 |
観心寺 |
大阪府河内長野市 |
毎年4月17日、18日 |
2 |
十一面観音立像 |
道明寺 |
大阪府藤井寺市 |
毎月18日、25日 |
3 |
千手観音坐像 |
葛井寺 |
同上 |
毎月18日 |
4 |
執金剛神立像 |
東大寺 |
奈良市 |
毎年12月16日 |
5 |
不空羂索観音立像 |
興福寺 |
同上 |
毎年10月17日 |
6 |
救世観音菩薩立像 |
法隆寺 |
奈良県生駒郡 |
毎年春と秋の各1ヶ月間 |
7 |
釈迦如来立像 |
清涼寺 |
京都市右京区 |
毎月8日 |
8 |
薬師如来坐像 |
勝常寺 |
福島県河沼郡 |
事前連絡により開扉 |
そして、環境効率の定義式を「製品やサービスの価値をその環境負荷で割った値」と定め、分子と分母の計算についての考え方を簡単に紹介しました。
分母の環境負荷については、仏像は「使用期間」が非常に長いため、ライフサイクル全体を通して評価するとはいえ使用時の影響、それも人々がお寺へ参詣する行為によって発生する環境負荷を大まかに計算すれば事足りるだろうと考えました。
また、分子では仏像の美的価値について考えてみましたが、秘仏は通常の仏像と比較して保存状態がとても良いという点に着目すべきであるというお話でしたね。
それでは、これらの考察を基に秘仏の環境負荷と価値を具体的に計算してみましょう。
まず、人間1人が参詣する時に発生する環境負荷をざっくりとaとし、1日の参詣者数をP、年間の開扉日数をD、そして使用年数(つまり仏像の寿命)をTとすると、秘仏1体のライフサイクル全体における環境負荷Aは以下のように表せます。
秘仏のライフサイクルにおける総環境負荷: A = a・P・D・T
なお、移動については別途Appendixにて考察を行っていますのでご参照ください。
一方、価値に関しては、美的な価値は秘仏が製作された時から御開帳の度にほんの少しずつリニアに損なわれていき、やがてゼロになってしまうまでの期間が寿命(T年)である、とかなり強引な想定のもとに計算してみるとどうでしょう。
製作時の美的価値をbとすると、使用期間(寿命)全体において生み出すことのできる総美的価値Bは、三角形の面積だと考えれば以下のように簡単に表せます。
秘仏のライフサイクルにおける総美的価値: B = b・T / 2
ならば、環境効率は価値を環境負荷で割った値ですから以下のようになりますね。
秘仏の環境効率: B / A = b / (2・a・P・D)
ここで、最初の美的価値bは国宝なら皆同じ(というか私ごときにはとても差なんかつけられません)でしょうし、人間一人の負荷aも日本国内なら似たようなものでしょうし、1日の参詣者数Pも有名なお寺であればそんなに違わないでしょうから、結局のところ、環境効率は年間の開扉日数Dのみに依存し、しかも反比例すると考えられます。
要するに、開扉されていない時も仏さまの美的価値は存続しているので、御開帳が多いほど寿命が短くなる(この間の総開扉日数や総環境負荷量は同じ)と想定する限り、秘仏の環境効率は年間の開扉日数に(ほぼ)反比例するという結論になりました。
ですから、なるべく人目に触れないよう大事に隠されていて、長〜く長〜く美しいお姿を保ち続けておられる仏さまが環境効率の最も良い秘仏であるというわけです。
とすれば、表の中では、年に1日しか開扉されない4番の東大寺の執金剛神立像と5番の興福寺の不空羂索観音立像の2体が環境効率第1位の座をともに獲得!となります。
ところで、開扉日数が少なければよいというのであれば、決して開扉されない「絶対秘仏」こそ最高の環境効率を有するのではないか、というご意見もあるでしょう。
でも、絶対にお目にかかれない仏さまだったら、美的価値の確認自体ができないので計算しようにもどうにも計算できず、残念ながら対象からはずさざるを得ません。
実は、第1回で紹介した善光寺のご本尊(阿弥陀三尊)もそうでして、7年(正確には6年)に一度の御開帳の際には「お前立ち」と呼ばれるレプリカを参詣者は拝むのです。
また、12年、33年、50年、60年に一度開扉されるというような仏さまも全国にはたくさんいらっしゃいますが、仏像の状態を常々把握し適宜修理等を施せるような保全体制を整えるためには、最低でも年に一度ぐらいは開扉して仏さまのご様子を確認すべきですよね(実際にはお寺でしっかりメンテナンスされているのかも知れませんが・・・)。
さらに、年に一度の御開帳だったら気候のいい春か秋の一日の方が何かと省エネなので、12月に開扉される4番ではなく、10月に開扉される5番の不空羂索観音立像が環境効率的により好ましく日本一環境効率の高い秘仏だ!という考察も可能でしょうか。
というわけでみなさん、来年の10月17日にはぜひ興福寺にお参りしましょう。
次回は、また何か新たな趣向を考えて登場しますので楽しみにお待ち下さい。(了)
<Appendix>
上のグラフは、旅客輸送において、各輸送機関から排出される二酸化炭素(CO2)の排出量を輸送量(人キロ:輸送した人数に輸送した距離を乗じたもの)で割り、単位輸送量当たりのCO2の排出量を国土交通省が試算した結果です。
このグラフからわかるように、自家用乗用車、航空機、バス、鉄道の順で単位輸送量当たりのCO2の排出量が多いため、移動には自家用車ではなく鉄道やバスを利用するのが良く、もちろん自転車や徒歩はさらに良いと考えられます。
つまり、秘仏にお参りする場合でも、環境負荷を減らすために自動車はやめて徒歩で、歩くのが無理なら電車で、電車が通ってなければバスでお寺まで行きましょう、ということになるのですが、では本当にそうすべきなのでしょうか?
例えば、善光寺に参詣するにはJR長野駅から電車、バス、徒歩という3つの手段がありますが、ここは頑張って全部徒歩で行くべきなのか、電車と徒歩なら横からお寺に入ることになるし、一番便利なバスで行ってはだめなのだろうか?と悩んでしまいます。
でも、ここで考えていただきたいのは、公共交通機関はあなたが利用してもしなくても運行しているという事実であり、自分一人だけで考えると環境負荷を減らしたように見えても地球全体への影響は実はほとんど変わっていない、という皮肉な一面です。
バスをやめて往復4 kmを歩いたあなたは56 × 4 = 224 gのCO2を削減したかもしれませんが、実際には、あなたが乗らなかったバスを利用した他の参詣者らがこの224 gのCO2を均等に分けて分担してくれただけで、トータルの排出量は変わりません。
むしろあなたは息も絶え絶えになっていつも以上に呼吸が荒くなり、その分CO2の排出量を増加させているかもしれないのですが、これではあまりに不条理ですよね。
しかも、バスで行けば自由に使えた時間を1時間近くも歩いてしまい、肝心のお参りに割く時間が少なくなったとしたらまさに本末転倒、ふんだりけったりです。
環境への影響は、大きな視野で本質をとらえ、より効果的に削減したいものです。
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