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新シリーズ:秘仏の環境効率を考察する!【第3回】

| 投稿者: 機械工学科

 みなさん、ご無沙汰しております。サステイナブルマネジメント研究室芝池です。
 少し間があいてしまいましたが、今回より秘仏の環境効率について考察を行います。
 ところで、仏像(仏さま)には大まかに言って「如来」「菩薩」「明王」「天部」という4種類の尊格があり、それぞれに重要なお役目がありましたね。
 如来は悟りを開いた尊い仏さま(仏陀)、菩薩は悩める人々を救済して下さる修行中の仏さま、明王は如来の化身、そして天部はお釈迦さまの教えに導かれて仏教に帰依し仏法を守護している元は他宗教の神々だった仏さまです。
 前回はこの4つの尊格について、大胆にも鉄道(特急列車)の種別になぞらえて説明してありますので、まだ読んでいない方はできれば先に一度目を通しておいてください。
 それでは秘仏についてですが、まず以下の表をご覧ください。
書物などによく紹介されている秘仏(国宝)から全くの個人的趣味で作成しました。
どうしても関西方面が多くなり旅程を合わせるのが難しいとは思いますが、本当に素晴らしい仏さまばかりですので、機会を見つけてぜひお参りしてみて下さい。

秘仏名

所蔵寺社

所在地

開扉日

1

如意輪観音坐像

観心寺

大阪府河内長野市

毎年4月17日、18日

2

十一面観音立像

道明寺

大阪府藤井寺市

毎月18日、25日

3

千手観音坐像

葛井寺

同上

毎月18日

4

執金剛神立像

東大寺

奈良市

毎年12月16日

5

不空羂索観音立像

興福寺

同上

毎年10月17日

6

救世観音菩薩立像

法隆寺

奈良県生駒郡

毎年春と秋の各1ヶ月間

7

釈迦如来立像

清涼寺

京都市右京区

毎月8日

8

薬師如来坐像

勝常寺

福島県河沼郡

事前連絡により開扉

 さて、環境効率とは製品やサービスの環境への影響と価値をライフサイクル思考に基づいて同時に評価する手法または指標でした。
 具体的に言うと、製品(やサービス)の機能的価値や経済的価値、美的価値などを環境影響と同時に評価するマネジメントツールで、国際規格にもなっています。
そして、下に示す式が最も一般的に用いられる環境効率の算出式です。
                      

環境効率 =

製品・サービスの価値
製品・サービスを生み出すための環境負荷
 
 どうです、ずいぶん簡単な式でしょう?
 つまり、ある製品の価値を環境負荷で割った値がその製品の環境効率を示します。
 また、環境効率の値そのものより、その変化や相対的な比較の方が重要でもあります。
 では、まずは上の式に則って秘仏の環境効率を考えてみましょう。
 まず分母の環境負荷ですが、前のシリーズで取り上げたLCAを思い出して下さい。
 LCAでは製品のライフサイクル全体、つまり資源の採掘から材料や部品の製造、製品の生産、製品の使用、そしてリサイクルや最終の廃棄処分に至るすべての工程における環境への影響を考慮しましたね。
 ですから、仏像を製作するところから最終的な廃棄までの環境負荷を計算する必要がありますが、そもそも仏さまは通常の製品やサービスに対して「使用期間」が極端に長い(千年以上もお祈りされていますから・・)ので、使用時の影響だけを考慮すれば、製造や廃棄といった他の影響はほぼ無視できる程度だと推定できます。
 そして、仏さまは何も環境に悪い影響を与えてはおられませんので、ここではお寺の運営とお参りされる人々に起因する環境負荷、例えば、お寺の照明や水道、参詣するための交通手段で消費されたエネルギー、お土産物やお弁当などの製造エネルギーやゴミ、等々を総合して算出すれば良いと考えられます。
 こうした値の計算は学園祭や展示会、ライブコンサートなどのイベント分析でよく実施されていますので、それらの結果を参考にすれば大体の目安になるでしょう。
 一方、価値については非常に計算が難しいのですが、例えば信仰の対象となる仏像の美的価値について考えてみた場合、通常の仏像と比較すると大抵の秘仏は圧倒的に保存状態が良い、つまり美的価値が大きいまま長期間存続しているという想定が可能です。
 事実、表の1番に示した観心寺の如意輪観音坐像などは彩色や文様もよく残っており、平安時代の密教美術最高峰の名にふさわしい優美なお姿を今も維持されています。
 普段は厨子の中に大切に保存されており、1年にたった2日しか外気に晒されないわけですから、千年の時を経てなお製作時に近い秀麗さ、荘厳さを保たれているのですね。
 しかも、隠されている間に人々の信仰に対する熱意が冷めるどころか、善光寺(長野市)の例が示すように、むしろ普段は直接拝めないからこそ、ご開帳時には全国から大変な数の方がお参りに来られるという絶大な効果をも生み出しています。
 こう考えてくると、いちいち細かい計算をしなくても秘仏の環境効率がきわめて高い数値を示すであろうと推量されるのですが、今回はひとまずここまでと致します。
 次回、最終回では、全国で最も環境効率の高い秘仏について考えたいと思います。

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